更新日:2022.4.16/公開日:2017.9.12
このコンテンツは山手皮フ科クリニック 院長 豊福一朋が100%オリジナルで書いています。
2023年7月29日をもちまして一般保険診療を終了させていただきました。この記事はご参考までお読みください。
円形脱毛症
1.円形脱毛症の病型と症状
円形脱毛症は外来患者数の2~5%を占める頻度の高い疾患です。頭髪や眉毛(まゆげ)、髭(ひげ)が抜けてしまいます。多くは30歳までに発症して男女差はありません。小児、学童にも出現します。家族内でおこることがあります。一般に自覚症状はありませんが、脱毛が起こる前や脱毛がおこっている時期に軽いかゆみや違和感、赤みがでることがあります。
病型
以下の4つの型があります
- 1)通常型
小型の脱毛斑が1個(単発型)から数個あります。もっとも多い型です。 - 2)全頭型
頭髪のほとんどが脱毛します。 - 3)汎発型
頭髪のみならず全身の体毛も脱毛します。 - 4)蛇行型
頭髪(とくに後頭部から側頭部)の生え際に沿って脱毛します。蛇行型は小児に主にみられ、難治のことが多いです。
経過
円形脱毛症の面積が小さいほど、早く治り傾向があります。アトピー性疾患や甲状腺疾患などの合併症がなく、脱毛の面積が小さい人(脱毛が1個あるいは数個)では80%程度で1年以内に治るとされています。しかし、再発も多いとされています。
1年以内に回復しない人(約20%)は全頭型や汎発型へ移行し、その場合には回復率は 10%以下と考えられています。
15 歳以下で発症した、あるいは蛇行型の場合は回復率が低いといわれています。
急性期:脱毛症状を自覚してから急速に病変部の拡大が進む時期
症状固定期:脱毛症状がおおよそ半年を超えた状況
2.円形脱毛症の原因
自己免疫性疾患
昔から円形脱毛症は強いストレスが原因といわれています。しかし現在では「自己免疫反応」によりおこることがわかっています。「自己免疫反応」とは体外から細菌やウイルスが体内に侵入するときにおこる自己防御反応(免疫反応)が何らかの原因で変調をきたして自分の身体に対して攻撃をおこすものです。円形脱毛症では毛を作り出す毛根の部分をリンパ球が攻撃・破壊する自己免疫反応がおこっています。なぜ自己免疫反応がおきてしまうかはわかっていません。
遺伝
家族内に円形脱毛症の人がいる、双子で円形脱毛症にかかる例があることなどから、「かかりやすい体質」つまり、遺伝的素因があるだろうと考えられています。円形脱毛症の人の約8%の方には家族内に円形脱毛症になった人がいるという報告があります。
合併症
アトピー性皮膚炎や皮膚の色が部分的に抜ける白斑症が円形脱毛症とともに見られることがあります。アトピー体質(アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息など)があると普通の人と比べて円形脱毛症にかかりやすいといわれています。
甲状腺疾患、尋常性白斑、SLE、関節リウマチ、I 型糖尿病、あるいは重症筋無力症などの自己免疫性疾患も関連するといわれています。特に甲状腺疾患は 8%、尋常性白斑は4%の合併率があるとされています。
ストレスとの関係
円形脱毛症の発症に精神的ストレスが関与するかについては以前から議論があり、関連はわかっていません。診療では脱毛症状が精神的ストレスで起きたと訴える方も多くいらっしゃいます。一方、脱毛以前の精神的ストレスを自覚されない方も多くいらっしゃいます。脳からでるストレスホルモンと毛組織との関係についての研究が行われています。
3.円形脱毛症の治療法
円形脱毛症ガイドライン(2017年)に記載されている治療法(効果があるものを抜粋)
治療法 | 適用 | ガイドライン推奨度 | 保険適用 |
ステロイド外用剤 | 単発型、癒合傾向ない多発型 | B | ○ |
ステロイド局所注射 | 面積25%以下の単発型、多発型 | B | |
局所免疫療法 | 面積25%以上の多発型 全頭型、汎発型 |
B | |
紫外線療法 ナローバンドUVB、エキシマライト |
すべての病型 | C1 | ○ |
カルプロニウム塩化物外用剤 | 単発型、多発型 | C1 | ○ |
抗ヒスタミン薬内服 | アトピー素因のある場合 単発型、多発型 |
C1 | ○※ |
セファランチン内服 | 単発型、多発型 | C1 | ○ |
冷却療法 | 単発型、多発型に補助療法として | C1 | |
ステロイド内服 | 6か月以内発症の面積25%以上の急速進行中 標準治療に抵抗する場合 |
C1 |
※ 円形脱毛症にはないが、アトピー性素因(アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息など)に保険適用がある
【ガイドライン推奨度】
A おこなうように強く勧められる
B おこなうように勧められる
C1 おこなうことを考慮してもよいが、十分な(臨床試験や疫学研究の)根拠がない
C2 (臨床試験や疫学研究の)根拠がないのですすめられない
※2017年の円形脱毛症の診療ガイドラインでは推奨度Aがなく、推奨度Bがもっとも推奨度の高い治療法となります。
円形脱毛症治療の順序(アルゴリズム)
上の図は円形脱毛症の重症度と病期に応じた治療で”2017年の円形脱毛症の診療ガイドライン”に準じて作成しています。
成人例の軽症例(罹患面積が頭髪面積の25%未満)および小児の急性期ではステロイド外用剤が第一選択です。セファランチンや抗ヒスタミン剤の併用をおこなうこともあります。抗ヒスタミン剤はアトピー性皮膚炎の合併例では考慮すべきです。
これらの治療方法に反応しない場合は、紫外線療法やステロイド局注療法への切り替えを検討します。
成人の重症例(罹患面積が頭髪面積の25%以上)での急性期ではステロイド内服療法(全身療法)をおこなってもよいとされています。この治療方法は脱毛がおこってから3か月以内で効果が高く、3か月以上経過していると効果が減弱します。症状が収まらず、症状固定期にはいった場合はSADBE(squaric acid dibutylester)、DPCP(diphenylcyclopropenone)を用いた局所免疫療法をおこなうことがあります。局所免疫療法は円形脱毛症を専門に治療しているクリニックや大学病院でおこなわれています。
それぞれの治療法について
1)ステロイド外用療法
クリニックで最初におこなうべき治療は局所の自己免疫反応と炎症を抑えるステロイド外用剤です。2017年の円形脱毛症の診療ガイドラインでは推奨度B※という、使用実績や安全性が考慮された第一選択の治療です。
2)ステロイド局注注射
成人ではトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト注射液)を脱毛部に直接注射すると効果的です。推奨度Bの治療法です。
投与間隔は 4~6 週に 1 回です。有害事象(副作用)として局注部位に萎縮や疼痛、血管拡張が報告されており、十分な注意をしながらおこないます。小児ではおこないません。
3)局所免疫療法
2017年の円形脱毛症の診療ガイドラインでは「年齢を問わず,S2 以上の多発型,全頭型や汎発型の症例に第一選択肢として行うよう勧める」という推奨文が載っています。SADBE(squaric acid dibutylester)、DPCP(diphenylcyclopropenone)という化学薬品を脱毛部に塗って人工的に接触皮膚炎をおこすことで、免疫を変えて脱毛症状を改善する治療法です。
※当院では局所免疫療法はおこなっていません。
4)紫外線療法(ナローバンドUVB療法、エキシマライト)
推奨度C1の治療法です。2017年の円形脱毛症の診療ガイドラインでは「症状固定期の全頭型や汎発型の成人例に対して PUVA 療法を行ってもよい また、すべての病型の患者に対してエキシマライトまたは ナローバンドUVB 療法を行ってもよい」という推奨文が載っています。推奨度C1(おこなうことを考慮してもよいが、十分な(臨床試験や疫学研究の)根拠がない)ですが、2020年4月より厚生労働省通達で保険適用になっています。新たに保険適用になったということは、円形脱毛症の治療の効果があると判断されていると考えられます。
5)カロプロニウム塩化物
脱毛部の血の流れを良くする薬剤です。推奨度C1の治療法です。1960年代の論文に効果があるという報告がある程度で、カルプロニウム塩化物の有益性は現段階では十分に実証されていません。しかし、保険適応があることと過去の診療実績による安全性から単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよいとされています。
6)抗ヒスタミン薬内服
抗ヒスタミン薬はアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の治療薬です。第 2 世代抗ヒスタミン薬内服の発毛効果に関してはある程度の根拠があり推奨度C1の治療法とされています。円形脱毛症の背景にアトピー素因(アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息など)がある場合に使います。円形脱毛症 への保険適応はないため、アトピー性疾患の背景をはっきり診断して処方します。この場合は保険適用となります。
7)セファランチン内服
推奨度C1の治療法です。発毛促進効果がある薬です。保険適応があることと過去の診療実績による安全性から単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよいとされています。
8)冷却療法
冷却療法の有用性は現段階では十分に実証されていない推奨度C1の治療法です。保険適応外である.簡便で副作用も軽微な点もより、単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよいとされています。過度の冷却により水疱形成や強い疼痛を生じないように治療します。
※当院では円形脱毛症の冷却療法はおこなっていません。
9)ステロイド内服
推奨度C1の治療法です。ステロイドの内服療法は、発症後 6 カ月以内で、急速に進行している面積25%以上の成人に対し使用期間(一般には3か月以内)を限定して行ってもよいとされています。休薬後の再発率が高いことより、ステロイドの外用・注射などの他標準的治療に抵抗する症例が治療の対象となります。
使用にあたってはステロイド内服の副作用である肥満・満月様顔貌、緑内障、糖尿病、月経不順、消化器症状、ざ瘡、骨粗鬆症などに注意します。なお小児は再発例が多く、安全性も確立しておらず、長期に及ぶ副作用の発現も危惧されることから行わないほうがよいとされています。
※当院ではステロイド内服はおこなっていません。
推奨されない治療法
診療ガイドラインで推奨度がC2となっている治療方法です。「(臨床試験や疫学研究の)根拠がないのですすめられない」治療方法となります。
- シクロスポリンA内服
- 漢方薬
- 抗うつ剤、抗不安薬
- タクロリムス外用剤
- ビタミンD外用剤
4.円形脱毛症の治療2
- 円形脱毛症の治療では、保険診療上、最初に処方する薬剤はステロイド外用剤です。ステロイド外用剤は円形脱毛症診療ガイドラインでの推奨度B(ガイドラインではAが存在せず、Bがもっとも推奨される治療となります)でかならず最初に使用されるべきです。
しかしながら、ステロイド外用剤単独では効果が不十分なことがあります。その場合は紫外線治療(エキシマライト)やステロイド局所注射を併用しします。
エキシマライトは2020年4月より保険適用となった治療機器です。円形脱毛症を早期に治療したい、ほかのクリニックの外用治療、ステロイド局所注射で効果が少ないという方にはおすすめです。
エキシマライト
エキシマライトUV308は、尋常性白斑、尋常性乾癬、掌蹠膿疱症、アトピー皮膚炎、円形脱毛症などの皮膚疾患を治療する最新の紫外線治療器です。2017年の円形脱毛症の診療ガイドラインでは「すべての病型に対してエキシマライトを行ってもよいことにする」とされています。波長308~311nm付近の光を照射する従来のナローバンド治療器とは異なり、より効果が高いと考えられる308nm付近の紫外線に限局して照射します。ナローバンド治療器は照射面積が大きく、円形脱毛症の部位に選択的に照射することが困難です。エキシマライトUV308は照射野が小さく、円形脱毛症の治療には最適です。
抗ヒスタミン薬内服、セファランチン内服、カルプロニウム塩化物外用剤
アトピ性皮膚炎などアトピー素因の合併症がある場合、第2世代抗ヒスタミン薬の内服を併用することがあります。以下の薬剤から1つを使用します。
フェキソフェナジン(アレグラ)
ロラタジン(クラリチン)
デスロラタジン(デザレックス)
エピナスチン(アレジオン)
エバスチン(エバステル)
ベポタスチン(タリオン)
セチリジン(ジルテック)
レボセチリジン(ザイザル)
オロパタジン(アレロック)
ビラスチン(ビラノア)
ルパタジン(ルパフィン)
医師の判断でセファランチン、カルプロニウム塩化物外用剤(フロジン外用剤、アロビックス外用剤)を処方することがあります。