更新日:2022.4.17/公開日:2017.2.17
このコンテンツは山手皮フ科クリニック 院長 豊福一朋が100%オリジナルで書いています。
2023年7月29日をもちまして一般保険診療を終了させていただきました。この記事はご参考までお読みください。
白癬・水虫・たむし
白癬は皮膚糸状菌(白癬菌)というカビによって生ずる感染症で、国民の5人に1人は足白癬(みずむし)に、10人に1人は爪白癬(爪みずむし)に感染しているといわれています。
足白癬はよくなったり、わるくなったりし、なかなか治ることがありません。とくに足白癬と爪白癬の両方があると治療をおこなっていても、再発を繰り返します。
足白癬と爪白癬を同時に治療することが重要となります。
白癬・水虫・たむしの症状
白癬・水虫・たむしの症状と分類
1)足・手白癬
足・手の毛の生えていない部分の白癬です。
趾間(足の趾のあいだ)に紅斑(あかみ)、鱗屑(皮膚のはがれ)、小水泡(小さな水ぶくれ)を生じるもので、痒みが強い「趾間型」、足(とくにかかと)の皮膚が厚く、ひび割れて、痒みがない「角質増殖型」があります。
自覚症状のない足白癬に注意
一般には、「足白癬はかゆみがある」と思われているかもしれませんが、足白癬でかゆみがある人はごく一部にすぎません。
足底の皮膚の角層が厚いところでは白癬菌が深部まで行かないので、炎症がおこらず、かゆみが生じにくいのです。
角化型の白癬は、足の裏が厚くなってひび割れたようになっています。
「単なる乾燥によっておこっている。」と思ってしまうために、足白癬があることを気づかないまま無治療で過ごし、症状が悪化することがあります。
無治療で放置することで、次にあります難治性の爪白癬に移行するので、治療が必要です
2)爪白癬
多くは爪の遠位(外側)、側縁(爪の横)から菌が侵入して、爪が白くなり、厚くなります。
軽度であれば、外用剤のみで治療ができますが、多くの場合、飲み薬が必要となります。楔状の混濁がある場合、難治です。
爪白癬の多くは、すでにある足白癬から白癬菌が爪に入り込むことで起こります。
足白癬を無治療で放置したり、治療を自己中断して治癒と再発を繰り返していると、爪白癬が起こりやすくなります。
いったん爪に白癬菌が入り込むと爪が白癬菌の貯蔵庫となります。
足白癬を外用剤で治療しても、つねに爪から菌が足全体に広がっていき、再発を繰り返す難治性の足白癬になります。
3)体部白癬(ぜにたむし)・股部白癬(いんきんたむし)
かゆみを伴い、境界が鮮明な環状の紅斑として現れます。環の周囲はわずかに盛り上がっています。
股にできるのが、いわゆる「いんきんたむし」です。広がって肛門周囲にまで届くこともあります。
4)頭部白癬(しらくも)
頭部にフケが付着した比較的境界のはっきりした不完全な脱毛局面としてみられます。残っている毛も簡単に抜けてしまいます。
皮膚の深いところまで感染すると、永久に脱毛となることがあります(ケルスス禿瘡)。
最近は新型白癬 Trichophyton tonsurans(トリコフィトン・トンズランス)よる感染が増えています。
※新型白癬の症状
柔道、レスリング、すもうなどの格闘技選手の間で最近Trichophyton tonsurans(トリコフィトン・トンズランス)という新しい菌が、外国から持ち込まれ感染する人が増えています。
この菌は感染力が強く、一度感染すると治りにくいので注意が必要です。
症状として体部白癬タイプと頭部白癬タイプの2種類に分けられます。
1)体部白癬 発疹は柔道着などの衣類で擦れる顔、首、上半身に直径1~2cmのかさかさしたピンク色の発斑が単発あるいは複数できます。
2)頭部白癬 フケやかさぶたが少しできるだけの⓵脂漏性湿疹型、薄毛のような症状となる⓶black dot ringworm、炎症が強い⓷ケルスス禿瘡の3つのタイプがあります。
格闘技選手間では6~10%程度の人は感染していますが、その80%以上が無症候性キャリアといって頭部に菌はいますが、症状がでない人といわれています。
白癬・水虫・たむしの原因と予防など注意点
▼感染の原因にるため同居者に水虫の方がいらっしゃる場合はスリッパ、足ふきマットを共有しないようにします。お風呂上がりの素足は避けます。
入浴後のケアは大切で、抗真菌薬を薄く足の全体に外用します。
足についたばかりの表面にとどまっている菌はこれにより早急に死滅します。
▼室内を掃除機をかけて、よく掃除して足の皮を残さないようにします。
剥がれた足の皮のなかで菌は1年以上生存します。
水虫が治っても、部屋のすみのはがれた足の皮を踏んで再感染の原因なります。
足ふきマットは洗濯機で洗濯することで、残った足の皮はほぼ完全に取ることができます。
▼靴が心配なときは、布製のスニーカーなどであれば可能な限り頻回に靴を洗って、靴の中の白癬菌を取り除いて、しっかり乾燥させ、毎日同じ靴を履かないようにします。
洗えない皮靴は、中を濡れ雑巾で拭いて白癬菌がついた微小な皮膚片、アカを取り除き、その後しっかりと乾燥させることが大切です。
それでも心配なら、1年間履かずに放置すると靴に残った菌は死滅しているはずです。
▼白癬菌は温度15℃以上、湿度70%以上になると増殖する原因になります。
常に蒸れを防ぎ、乾燥させることを心がけましょう。
たとえば、温泉や旅館に宿泊した際、アスレチックジム、プールを利用した際は、足を十分乾燥させて靴下を履きます。
さらに、抗真菌剤を外用して予防します。
▼趾と趾の間に隙間がない人は再感染しやすく、5本趾の靴下を履くとすきまができて、水虫になりにくくなります。
▼子どもへの感染も起こります。
感染の7~8割は家族からですが、夫婦間よりも親子間のほうが感染することが多いのです。
父親からうつるケースが多いので、気を付けてください。
医療機関で治療することをすすめています。
ただし、小さい子どもは長時間靴や靴下を履いていることが少なく足白癬にはかかりにくいようです。
白癬(水虫・みずむし・たむし)の治療方法
外用療法(皮膚に軟膏・クリームを塗布する治療法)
白癬治療にはペキロン,ルリコン,ア局スタット,ゼフナート,ラミシールなどの抗真菌剤クリームを入浴後に1日1回外用します。
股部白癬(いんきんたむし)では2週間、足白癬では4週間以上外用します。
市販薬との違いをよく訪ねられますが、市販薬は白癬菌に効く成分だけでなく、かゆみ止めであるクロタミトンとか局所麻酔薬のジブカインなどが配合されていることが多いため、病院で処方される薬よりかぶれる頻度が多くなります。
足白癬なのに薬で買った抗真菌剤クリームを塗ったら、なおいっそう悪くなったというのは菌を殺す成分以外の成分にまけていることがあります。
足白癬を完全に治すためのコツ
治療のゴール
かゆみがなくなったり、外見がきれいになったので、「治った」と判断して治療を自己中断される方が多くいらっしゃいます。
自覚症状がなくなっても、足の角層の白癬菌は存在していますから、少なくとも1か月は治療を続けてください。
外用薬の塗り方
足白癬では白癬菌は症状がない部位にも存在しますので、足裏全体にまで広めに外用することが大切です。
足のすべての指(足の甲側や指のあいだ)や足縁、アキレス腱のところまで外用します。
足を清潔に
足を清潔にすることは大切です。
入浴時に石鹸で足の指の間、爪周囲も洗い、入浴後は指の間の水分も拭き取ってください。
軽石などでかかとや皮が硬くなっているところをゴシゴシ擦ることはよくありません。
皮膚について傷から白癬菌が皮膚に侵入することになります。
外用剤の種類
薬剤系統 | 薬剤 | 剤形 | ||||
イミダゾール系 | 一般名 | 商品名 | クリーム | 液 | 軟膏 | スプレー |
ラノコンラゾール | アスタット | 〇 | 〇 | 〇 | - | |
ルリコナゾール | ルリコン | 〇 | 〇 | 〇 | - | |
ネチコナゾール塩酸塩 | アトラント | 〇 | 〇 | 〇 | - | |
ケトコナゾール | ニゾラール | 〇 | 〇 | - | - | |
ビホナゾール | マイコスポール | 〇 | 〇 | - | - | |
アリルアミン系 | テルビナフィン塩酸塩 | ラミシール | 〇 | 〇 | - | 〇 |
ベンジルアミン系 | ブテナフィン塩酸塩 |
メンタックス/ボレー |
〇 | 〇 | - | 〇 |
モルホリン系 | アモルリフィン塩酸塩 | ペキロン | 〇 | - | - | - |
チオカルバミン系 | リラフタナート | ゼフナート | 〇 | 〇 | - | - |
足白癬の症状により剤形の選び方
剤形 | 特徴 |
クリーム | 浸透性が高く、使用感がよい。乾燥からややジクジクした白癬に適する。 |
液 | 塗りやすい。アルコールの刺激感で皮膚に合わないことがある。 |
軟膏 | 安全性高いがベタつきがある。びらん、ジクジクした白癬に適する。 |
スプレー | 患部に接触しないため、家族が外用するのに適する。乾燥した白癬のみ。 |
爪白癬専用の外用療法
爪白癬の治療は、ルコナック爪外用液、クレナフィン爪外用液を用います。
1日1回の爪白癬専用の外用剤です。
軽度から中程度の爪白癬は内服薬を使うことなく治療することができるようになりました。
ルコナックによる治療薬剤費
ルコナックの薬価は1g 932.3円です。
1本(4ml, 3.5g)で3,263円なので保険診療30%自己負担では979円となります。
月1本の使用量で1年間使った場合は、薬剤費のみでは11,747円(健康保険自己負担30%)となります。
クレナフィンによる治療薬剤費
クレナフィンの薬価は1g 1592.3円です。
1本(4ml, 3.56g)で5,668円なので保険診療30%自己負担では1,700円となります。
月1本の使用量で1年間使った場合は、薬剤費のみでは20,407円(健康保険自己負担30%)となります。
内服治療
日本で保険で認可されている内服抗真菌薬はテルビナフィン(ラミシール)、ホスラブコナゾール(ネイリン)、イトラコナゾール(イトリゾール)の3種類です。
最も効果に優れているのはホスラブコナゾール(ネイリン)です。
内服期間が3ヵ月と短く来院回数が3回ですみます。
欠点は費用が高いことと、爪の伸びが悪い人には効果が薄いことです。
テルビナフィン(ラミシール)は薬剤費が安く済みます。また後発品を使うとさらに安くなります。
欠点は内服期間が6ヶ月となることです。
通常はこの2種類にいずれかで治療します。
テルビナフィン、ネイリンが体に合わない人や、無効であった人に対してはイトラコナゾール(イトリゾール)を使用する場合があります。
内服抗真菌薬の副作用は胃腸障害や肝機能障害です。
慢性肝炎や飲酒などで肝機能が悪い人にはおすすめしません。
前述のルコナックやクレナフィンなどの外用剤を使用します。
治療中は副作用をチェックするため、定期的に血液検査を行います。
一部飲み合わせの良くない薬がありますので、他の病気の治療のため内服中の薬がある方は、その薬の内容を医師にお伝え下さい。
テルビナフィン
1日1回1錠を食後に内服します。
内服期間は体部白癬は2週間、頭部白癬は4~8週間、爪白癬は24週間(6か月)です。
ネイリンカプセル
1日1回食後に内服します。治療期間は3カ月です。
イトリコナゾール
1日2回朝夕で内服します。1週間内服して3週間休薬を3回繰り返します。
爪白癬治療 テルビナフィン、ネイリンカプセル、イトリコナゾールの比較
テルビナフィン | ネイリンカプセル |
イトリコナゾール |
|
飲み方 | 1日1回 | 1日1回 | 1日2回 |
治療期間 | 6ヶ月 | 3ヶ月 | 3ヶ月 |
通院 | 1ヶ月に1回 | 1ヶ月に1回 | 1ヶ月に1回 |
長所 | 併用禁止薬がない 効果がとても高い 後発薬の効き目のばらつきが小さい |
併用禁止薬がない |
通院回数が少ない(3回) 忙しい人に向いている 採血の回数が少ない(3回) |
短所 | 通院が6ヶ月必要(6回) 採血の回数が多い |
爪の伸びが悪い場合効果少ない | 併用禁止薬が多い 効果はテルビナフィンに劣る 後発薬の効き目のばらつきが大きい |
併用薬 | 注意薬あり(併用禁止でない) ・ジメチジン(タガメット) ・リファンピシン ・三環系抗うつ剤 ・ピル |
注意薬あり(併用禁止でない) ・シンバスタチン ・ミタゾラム 等 |
併用禁止薬が多い 高血圧薬、高脂血症薬など多数 ※内科で薬剤を多数処方されている方 にはおすすめしない |
薬価(1剤) | \98.7 | \804.60 | \293.9 |
治療期間での薬剤費 カッコ内保険診療自己負担30% |
\17,766 |
\67,587 |
\49,375 |