更新日:2022.4.16/公開日:2017.8.14
酒さ
酒さとは、主に中高年の顔面(特に、眉間、鼻、頬)に好発し、発赤と毛細血管拡張が数か月以上持続する、慢性炎症性疾患です。症状に、ニキビに似た丘疹、膿疱が生じることがありますが、ニキビと異なり、面皰はみられません。
酒さは症状と部位により、4種類に分類されます。
第1度酒さ:紅斑毛細血管拡張型
酒さの最初の症状は、鼻の先端部、眉間、頬、顎の発赤です。次第に持続性となり、発赤の広がりに加え、毛細血管拡張と脂漏を伴うようになります。かゆみ、ほてり感、皮膚への刺激に過敏になるといった自覚症状があります。寒暖や飲酒が、症状悪化に影響することがあります。
第2度酒さ:丘疹膿疱型
病状が進行すると、第1度の症状に加え、ニキビに似た毛孔に一致した丘疹や膿疱が生じるようになり、脂漏が強まります。ここで生じる皮疹は、ニキビに似ていますが、面皰はみられません。症状は顔面全体に広がります。
第3度酒さ:腫瘤型
丘疹が融合して凹凸不整の腫瘤状となります。鼻にこのような症状が生じると、皮膚の色が赤紫色となり、毛孔が拡大してミカンの皮のような外観になります(鼻瘤)。
眼型
眼の周囲の腫れや結膜炎、角膜炎などを生じることがあります。
面皰とは:皮脂などが毛孔を閉塞した結果生じる丘疹や膿疱のこと。
脂漏とは:皮脂腺の機能の亢進により、皮脂の分泌が過剰なこと。
病因
酒さの原因は、未だ判明していません。病変部位では自然免疫に関与するTLR2や抗菌ペプチドの発現が亢進しているとされています。これにより、日光(紫外線)、ストレス、睡眠不足、飲酒、刺激物摂取、毛包虫感染などの外的刺激に対する感受性が高まり、炎症や血管増生をきたすと考えられています。
TLR2とは:Toll様受容体(Toll-like receptor[TLR])は、生体が生まれながらに持っている免疫機構である自然免疫のうち、体組織内での働きの一つであり、体組織内に侵入した病原体などの異物を認識し、炎症を引き起こす免疫機構のこと。TLRが認識する主な対象は、細菌、真菌、原虫である。
抗菌ペプチドとは:体表面(皮膚表面)の自然免疫の一つで、細菌や真菌、ウィルスなどに抗菌作用を示して、異物から体を守る免疫機構のこと。
山手皮フ科クリニックの酒さ治療
- 内服抗生剤※保険治療
(丘疹症状に対して)第1選択:ドキシサイクリン、第2選択:ミノサイクリン
(痒みに対して)抗アレルギー薬の内服 - 外用剤※保険治療
ロゼックスゲル(メトロニダゾール0.75%ゲル) - 生活指導…後述
- 毛細血管拡張症状に対して(保険での治療は40㎠まで)…色素レーザー治療*発赤、皮疹がある部位への色素レーザー治療はできません。
酒さの原因(山手皮フ科クリニック院長私見)
酒さの症状を悪化させる要因として、紫外線、ストレス、睡眠不足、飲酒、カフェインや香辛料等の刺激物摂取、毛包虫感染、などが知られています。私も生活習慣改善が酒さ治療に効果があり、必要なことであると考えています。しかしながら、患者様たちが社会生活を送るうえで取り組めることには限りがあります。
私は酒さ治療において、重要なことは次の4つと考えています。
- 患者さん自身が自身の肌質を理解する
- 過剰な保湿、油脂によるスキンケアを避ける
- 紫外線を避ける、紫外線対策を徹底する
- 皮膚への摩擦を避ける
細菌感染と酒さ
酒さは主に中高年の顔面、特に鼻や眉間、頬に好発します。これらは、皮脂を産生、分泌する脂腺が豊富な部位です。ニキビもこれらの部位にできやすいのですが、ニキビは面皰形成を発端として生じる丘疹であり、酒さの皮疹には面皰がみとめられません。酒さの方を多く診ていると、皮膚の発赤と赤い丘疹や膿疱があります。
私はこの皮疹がなぜできるかを考えてみました。赤い丘疹や膿疱は皮膚に炎症があることを示します。この皮疹に対しては、ドキシサイクリンなどの内服抗生剤や外用剤のロゼックスゲルがよく効きます。特にロゼックスゲルは原虫や嫌気性菌に対して効果があるメトロニダゾールという抗生物質です。抗生物質が効くということは、酒さの皮疹には細菌感染が関与している証拠です。酒さの原因、特に第2度酒さ(丘疹膿疱型)では、アクネ桿菌やその他の嫌気性菌の増殖が原因の一つだと考えています。
当院では治療に用いていませんが、海外ではイベルメクチンという駆虫薬の外用剤が酒さの標準的治療薬として使用されています。イベルメクチンはメトロニダゾールよりも酒さの丘疹、膿疱に効果があるという報告もあります。
メトロニダゾールやイベルメクチンにより、症状が改善するということは、酒さの丘疹や膿疱には、皮膚に存在する細菌や虫が関与しているということです。
皮脂と酒さの赤み
酒さは、皮脂を産生、分泌する脂腺が豊富な部位に生じます。皮脂には皮膚の乾燥を防いだり、皮膚表面を酸性に保つことで病原菌などを殺菌する働きがあります。しかしながら、過剰な皮脂はアクネ桿菌などの細菌による遊離脂肪酸の生成や好中球遊走因子・補体活性化因子の産生、好中球が放出する活性酸素などにより炎症が引き起こされ、毛孔に一致した発赤が生じます。
皮脂分泌が盛んな部位に発赤が生じることは、自然なことです。私は、この皮脂分泌により生じた発赤を悪化させる原因は何かを考えてみました。
要因の一つに、油脂を基材とした化粧品や医薬品の使用があるようです。酒さや赤ら顔の症状がある方には、自覚症状として皮膚の乾燥や刺激感があります。乾燥するから刺激を感じる、保湿をすることで乾燥を改善したり予防できると考えて、保湿力の高いスキンケア用品や保湿剤であるヘパリン類似物質製剤を使用している場合が非常に多いです。
後述しますが、皮膚にとどめることができる水分量は皮膚の最も外側の角層の状態に依存性に決まっています。また油脂による保湿は、表皮からの水分の蒸散を防ぐものであるため、皮膚への水分補給にはなりません。そもそも酒さの症状は脂腺が多い部位に生じるので、油脂を基材とする製品での保湿は必要ありません。油脂を基材とした製品は、皮脂が毛孔から皮膚表面に広がることを妨げます。毛孔に過剰に皮脂が貯留すると、細菌により遊離脂肪酸に分解され炎症(発赤)を悪化させます。
酒さの方が日頃使用する化粧水などの基礎化粧品は、オイルフリーのものを使用していただくことを推奨しています。※酒さの診療において、当院取扱製品以外の基礎化粧品、化粧品の効能・効果、使用方法についての意見・説明はいたしておりません。
紫外線と酒さ
日光を浴びると、酒さの発赤や丘疹といった症状は悪化します。これには、日光に含まれる紫外線が関与していると考えられています。日光に含まれる紫外線には殺菌、ビタミンDの活性化、細胞障害などの作用があります。急性障害として、サンバーン(炎症反応、皮膚が赤くなる)やサンタン(色素沈着、皮膚が黒くなる)、免疫抑制が起こります。例えば、海水浴に行った後に体が疲れる、ヘルペスがでたという症状は、全身の免疫力が低下したことによります。慢性障害としては、シミ、シワなどの光老化や、皮膚がんを生じます。
日光暴露による酒さの発赤の悪化は紫外線(主にUVB)により生じる炎症です。炎症とは、外敵から体を守るための局所的な防御反応のことであり、急性炎症箇所には発赤や熱感、腫れ、痛みを伴います。
紫外線の細胞障害作用により角化細胞のDNAが損傷されるとアポトーシス(細胞死)を起こします。損傷を受けた角質細胞を取り除こうと、白血球などの免疫細胞が働きます。このとき、私たちの体は問題が生じた箇所の毛細血管を拡張させ、皮膚の血流を増やすことで免疫細胞を集めます。そのため、炎症が生じている皮膚では赤みや腫れが増強することになります。
酒さの丘疹症状の悪化は、皮膚免疫が低下することによる細菌や毛包虫による感染が原因の一つと考えられます。
私は日頃の診療で、日傘や帽子を用いた日光防御とサンスクリーン剤(日焼け止め)の使用を徹底するようにお伝えしています。サンスクリーン剤は、日焼け止めが入っている化粧下地やファンデーションではなく、日焼け止めとして販売されているものを塗っていただきたいです。
スキントーンと酒さ
「酒さは肌の色が白い人に多い」といわれ、実際、酒さは肌の白い人種に多い疾患です。日頃の診療でも、酒さの患者さんにはスキントーンが明るい方が多い印象です。スキントーンと酒さの関係について、私は次のように考えています。人の皮膚の色は、メラニン、ヘモグロビン、カロチンなどによりそのスキントーンは左右されますが、実際にはメラニン量によりほとんど決定されています。
メラニンの最も重要な役割は紫外線防御です。紫外線がメラニンを吸収することで、日光障害や、悪性腫瘍の発生を防いでいます。肌の黒い人種であるほど紫外線による皮膚がんの発生が少ないのはそのためです。そのほかの機能としては、金属や化学物質、薬剤、紫外線照射により発生した活性酸素の取り込みがあげられます。
メラニンは、主に皮膚表皮の基底層に存在する色素細胞(以下、メラノサイト)で産生されます。もう少し詳細に説明すると、メラニンはこのメラノサイト内のメラノソームという細胞小器官内でのみ生合成がおこなわれ、成熟したメラノソームがメラノサイトと隣接する角化細胞(以下、基底細胞)に供給されるとメラニン顆粒(以下、メラニン)となります。ここでメラノソームを受け取った基底細胞は核の上方、皮膚表面側にメラニンを集め(メラニンキャップといいます)、紫外線から核内のDNAを守っているのです。
スキントーンが明るいということは皮膚のメラニン量が少ないことを意味します。メラニン量が少なければ、皮膚を紫外線や化学的刺激から皮膚を守る機能は低下します。つまり、「紫外線と酒さ」で述べたとおり、酒さの症状が悪化しやすいということです。酒さの方に限らず、日頃の診療においても、色白の方のほうが、薬剤や化粧品にかぶれやすい(接触性皮膚炎を生じやすい)傾向にあります。
角層の菲薄化と酒さ
人の皮膚に生じる赤い色のもとは、血管の中を流れる赤血球に含まれる酸化ヘモグロビンです。人の皮膚は外側から表皮・真皮・皮下組織の3層構造をしています。通常表皮に血管は存在しません。表皮は平均0.2mm(ティッシュ1枚くらい)の厚さです。表皮の最も上層(外側の層)を角層といいます。角層の働きとして特に重要なのは、バリア機能と水分保持機能です。
私が日頃の診療でお会いする酒さの患者さんの皮膚表面をよく見ると、角層がないあるいは角層形成が未熟で、表面がつるつるしたお肌の方が多くいらっしゃいます。過剰な角層は皮膚の質感の悪化や、くすみ、ニキビの原因となりますが、角層がない皮膚は紫外線や物理的刺激によるダメージを受けやすく、少しの刺激で皮膚の刺激感や発赤が生じやすくなります。さらに、角層が薄いということは、真皮に存在する血管や、血行が良くなった時の真皮の紅潮が透けて見えやすい状態になっていると言えます。
角層の菲薄化が生じている皮膚のバリア機能は低下しています。皮膚のバリア機能が低下すると、体は局所的に血流を増加させ毛細血管を拡張させることで白血球などの免疫細胞を集めます。「紫外線と酒さ」で述べたとおり、この働きを炎症といいます。つまり、角層の菲薄化が生じている皮膚表面は、その時点で感染やアレルギーが生じていなくても、炎症症状である発赤や熱感、腫れ、痛みを伴うということです。また、免疫細胞が集中しているため、化粧品や薬剤、金属などの感作が成立しやすい(アレルギーになりやすい)状態になっています。
角層が薄いということは、皮膚に存在するメラニン量も少ないということです。スキントーンに関わらず紫外線や科学的刺激から皮膚を守る機能が低下しているといえます。
また、皮膚の水分保持機能は角層にあります。皮膚表面にとどめることができる水分量は角層の状態に依存性に決まっています。角層の菲薄化が生じている皮膚は、水分保持機能が低下しており、どんなに外側から化粧水や保湿剤を塗布して乾燥する感じがするのはこのためです。保湿が不十分だから乾燥する、乾燥しているから皮膚炎が良くならないというわけではないのです。
角層を正常な状態に保つために最も重要なことは、洗顔時やスキンケア時の摩擦により角層を取り除きすぎないこと、普段から不必要に顔の皮膚に触れないことです。
治療の流れ
- 当院へのご来院が初めての方…完全予約制です。
- 当院へのご来院が2回目以降の方…WEB予約または保険診療窓口受付時間内にご来院ください。
※保険診療のご予約は全てWEB予約サイトから患者様ご自身でお取りいただいております。
※ご予約は受診されるお一人様ずつお取りください。
※クリニック窓口でのWEB予約サイトの利用方法の詳細な説明はいたしかねます。