更新日:2022.9.21/公開日:2021.2.11
このコンテンツは山手皮フ科クリニック 院長 豊福一朋が100%オリジナルで書いています。
2023年7月29日をもちまして一般保険診療を終了させていただきました。この記事はご参考までお読みください。
痒疹(ようしん)
1.痒疹とは
痒疹とはかゆみの強い丘疹※1、結節※2です。
症状が長期間続き、慢性に経過する痒疹は中高齢者に多くみられます。
腎不全、肝障害、悪性腫瘍など種々の基礎疾患を背景として発症することがあります。
※1 丘疹:皮膚から隆起する米粒大から直径1cm程度くらいまでのドーム状の皮疹
※2 結節:丘疹がさらに悪化して固く触れるようになったもの
2.痒疹の分類
従来の分類
2020年から分類が変わっていますが、下の図は従来の分類です。
痒疹が継続している期間で分類されたものです。
しばしば虫刺されが痒疹の原因となることをよく表しています。
急性痒疹
四肢や躯幹(くかん)※を虫に刺されると強い痒みが生じ、赤く腫れ、丘疹をつくります。
これは急性痒疹の反応です。
※躯幹:頭と手足を除いた胴体部分
ストルフルス
虫刺されの段階でステロイド外用剤で治療するのですが、その後数日して、米粒大から親指大までの丘疹や結節を生じることがあります。
丘疹や結節が虫刺されの部位だけでなく、虫に刺されていない離れた部位にも出現することがあり、これをストルフルスといいます。
アレルギー反応が関与しているといわれています。
典型的な急性痒疹です。
亜急性痒疹
小児はもとより、成人や高齢者でも虫刺されが引き金となり、痒疹が起こることがあります。
急性湿疹から時間が経過して、丘疹から結節にかわり、治りにくくなっている状態です。
慢性痒疹
痒疹が難治性で数週間から数か月、長い人では数年に及んだ場合は、慢性痒疹となります。
治療がなかなかうまくいかず、頑固な痒みを訴えます。
慢性痒疹には、結節性痒疹と多形慢性痒疹があります。
2020年からの分類
現在使用されている痒疹の分類は、痒疹の臨床型と原因とに分けているのが特徴です。
結節性痒疹
触れると硬いドーム状またはイボ状の結節が、四肢(手、うで、あし)に生じます。
非常に痒みが強く、四肢に多いのは搔きやすいからです。
前述の亜急性痒疹がより慢性的に経過したものと考えられます。
多形慢性痒疹
成人、高齢者のわき腹、おしり、太ももの外側によくみれます。
胸、肩甲部などにもみられることがあります。擦れやすい部位を中心に現れるのが特徴です。
強い痒みがあるじんま疹のようなぶつぶつした丘疹ではじまり、やがて手で触知できる硬い結節となります。
結節性痒疹より小さめの丘疹、結節となります。
痒疹
結節性痒疹、多形慢性痒疹のいずれにも該当しないものを総称したものです。
従来の急性痒疹,亜急性痒疹などを含みます。
原因による分類
虫刺されによる痒疹
症候性痒疹(種々の疾患に関連して生じる痒疹)
- 腎性痒疹
- 肝性痒疹
- 糖尿病性痒疹
- 悪性リンパ腫 白血病に伴う痒疹
- 悪性腫瘍による痒疹
金属アレルギーによる痒疹
薬剤性痒疹
心因性疾患による痒疹
妊娠性痒疹
アトピー性皮膚炎にみられる痒疹
湿疹病変に続発して生じる痒疹
誘因が特定できない痒疹
3.痒疹の治療
慢性痒疹の治療手順を下の図に示しています。
難治性の場合、内分泌疾患、代謝異常症、腎障害、肝臓・胆道系疾患、血液疾患、内臓悪性腫瘍がないかを問診にてお聞きします。
これらの病気(基礎疾患)があれば、内科などで治療をおこないます。
皮膚科では、スキンケア、皮膚刺激の回避などの生活指導をおこない、第一選択の治療を開始します。
第一選択の治療
痒疹の治療においてはスキンケアが重要です。皮膚の乾燥があれば保湿剤を処方します。
ステロイド外用剤と内服の抗アレルギー剤(上図では抗ヒスタミン剤)は最初に使う治療薬です。
当院では難治性の痒疹には中長波紫外線療法としてナローバンドUVB、エキシマライトをおすすめしています。
ナローバンドUVB、エキシマライトは安全で効果が高い治療法です。
第二選択の治療
第一選択の治療法が効かないとき、以下の治療法を併用します。
- ステロイド局注
- へパリノイド含有クリーム
- 活性型ビタミンD3軟膏
- タクロリムス軟膏
- 鎮痒性外用薬
- カプサイシン軟膏※
- 液体窒素
- ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液※
- レセルピン※
- ガバペンチン.プレガバリン※
- 漢方薬
※当院では取り扱っていません。
ステロイド局注
ケナコルト注射薬を2~4週間おきに0.1~1mL程度を痒疹の結節に直接注入します。
痒疹の治療にはよく使われる安全性の高い方法です。
活性型ビタミンD3軟膏
ステロイド抵抗性の難治性痒疹に効果があったという報告があります。
タカルシトール(クリーム、ローション)、カルシポトリオール(軟膏)、マキサカルシトール(軟膏)があります。
漢方薬
以下の漢方薬で効果があったという報告があります。
- 黄連解毒湯
- 四物湯
- 補中益気湯
- 温清飲
- 柴芩湯
- 越婢加朮湯
- 桂枝茯苓丸
- 桂枝加朮附湯
第三選択の治療
第二選択の治療法が効かないとき、以下を第三の治療法として考慮します。
- シクロスポリン※
- 全身ステロイド内服※
- インターロイキン阻害薬
※ 当院ではこの2つの治療はおこなっていません。
シクロスポリン
シクロスポリンはほとんどの難治症例で効果があるといわれています。
副作用として腎障害があり、採血で腎機能をチェックしながら使います。
全身ステロイド内服
痒疹がある方はしばしば高齢者で腎障害がある傾向があります。
この場合、シクロスポリンでの治療は難しく、全身ステロイド内服を使いますが、全身の副作用に注意が必要です。
インターロイキン阻害薬
痒疹の部位ではT細胞から過剰なインターロイキンというサイトカインが過剰に発現されていて、これが痒疹の原因に関係することがわかっています。
このインターロイキンを阻害する薬を使い、難治性の痒疹を治療することが可能になりつつあります。
シクロスポリンと全身ステロイド内服と異なり、腎機能や全身への悪影響がすくないので、治療薬として期待されています。
現在、臨床治験薬としてのみ使用可能です。