公開日:2023.5.8
Qスイッチルビーレーザー
ドイツ Asclepion社製のナノスターRというルビーレーザーです。
ナノスターRは日本の厚生労働省の承認を得ている医療機器になります。
当院でQスイッチルビーレーザーを用いて治療をおこなっている疾患
- 太田母斑
- ADM(後天性両側性太田母斑様色素斑)
- 扁平母斑
- 外傷性刺青
Qスイッチとはなにか
Qスイッチとは「Quality Switching」の略で、強力なエネルギーを非常に短い時間で発振することができるレーザーの構造です。
Qスイッチを搭載したレーザーは皮膚科、形成外科で幅広く使われる治療は皮膚の若返り(リジュビネーション)に欠かせない機器です。
その理由を述べるには、レーザーのメカニズムを説明する必要があります。
SP理論(selective photothermolysis)
レーザー治療が発展したのは1983年にAndersonという米国人が発表したSP理論(selective photothermolysis)がもとになっています。
レーザーは機械で増幅された単一波長の光のことです。この単一波長の光(レーザー波)には波長というものがあり、それぞれの色によって吸収される波長が異なります。
ある物質(ターゲット)に対してその色に吸収されるレーザー波を照射すると、そのエネルギーは大部分が熱エネルギーに変換され、レーザー波を吸収したターゲットの温度が上昇します。その後、熱エネルギーはターゲットの周囲へ拡散していきます。
レーザー波をある一定の時間を超えても照射し続けると、吸収された熱エネルギーがどんどん周囲の組織にも拡散して、ターゲット以外の周囲の細胞・組織にも熱傷害が及ぶことになります。皮膚組織ではターゲット周囲が熱傷となります。
これを防ぐためにはレーザー波を”非常に短い時間”でターゲットに照射して、熱エネルギーの拡散をターゲットに限局させる必要があります。
Qスイッチ
”非常に短い時間”は1千万分の1~1億分の1秒で、これを発振することができるのがQスイッチです。
Qスイッチを搭載したレーザーは波長694nmのルビーレーザー、755nmのアレキサンドライトレーザー、1,064nmのNd:YAG(ヤグ)レーザーです。
シミ・ソバカス、扁平母斑などの表在性色素性疾患、太田母斑、ADM、外傷性刺青などの真皮内にある深在性色素性疾患の治療を可能としています。
ルビーレーザーの特徴
ルビーレーザーの694nmの波長はメラニンへの吸光係数が高く、ヘモグロビンやコラーゲンへの吸光係数が低い特性により、メラニン色素に対して選択性の高い治療効果が得られます
吸光係数とは光がある媒質(皮膚科ではメラニン、酸化ヘモグロビン、水)に入射したとき、その媒質がどれくらいの光を吸収するのかを示す定数です。吸光度という指標で表されます。どのレーザーが色素性疾患、血管の病変、皮膚の若返り(リジュビネーション)などに効果があるかは、レーザーの波長が持つ吸光度の特性で決まります。レーザーの治療原理に関係するものです。
メラニンへの吸収
上の図のはルビー、アレキサンドライト、Nd:YAG(ヤグ)レーザーの波長とメラニン、酸化ヘモグロビン(赤血球)、水への吸光度です。吸光度とはある物質に光やレーザーを当てたときに光やレーザーがどのくらい物質に吸収されるかと表しています。
例を挙げると、太陽光は様々な波長の光の集まりですが、色によって吸収が違います。日差しの強い時に黒い服で外出した場合、太陽光を吸収し服は熱くなります。これは太陽光は黒に対する吸光度が高いからです。一方、白いシャツの場合はさほど熱くはありません。太陽光は白に対する吸光度が低いからです。レーザーでは波長は一定となり、それぞれがメラニン、酸化ヘモグロビン、水で吸光度が違います。
では、実際にレーザーと物質の吸光度の関係を見てみましょう。図ではメラニン(茶色)、酸化ヘモグロビン(赤血球、赤色)、水(青)の曲線は横方向に描かれていて、これと波長を表す縦線が交わった点が吸光度です。波長694nmのルビーレーザーと波長755nmのアレキサンドライトレーザーの点線がメラニンの茶色の線(メラニン)と交わる点(交点)を比べてみます。ルビーレーザーの交点がアレキサンドライトレーザーの交点より高い位置にあるのがわかります。メラニンへの吸光度においてはアレキサンドライトレーザーよりルビーレーザーが勝っています。レビーレーザーとアレキサンドライトレーザー双方とも酸化ヘモグロビンには吸光度がきわめて低く、水には吸光度がない(吸収されない)ことがわかります。よって、この2つのレーザーは治療の際に血管に直接ダメージを与える可能性は極めて少なく、水分が豊富は真皮、脂肪組織には直接のダメージを与えない※といえます。
実際の治療ではレビーレーザーとアレキサンドライトレーザー双方とも高いメラニンへの吸光度を持つので、アレキサンドライトレーザーよりルビーレーザーが優れているわけではなく、レーザーの照射速度や微妙な治療効果の差で医師の好みで使われています。ただし、3つのなかでNd:YAG(ヤグ)レーザーは吸光度が低く、当院では色素性疾患の治療には用いていません。しかし、Nd:YAG(ヤグ)レーザーは次項で述べる深達度で優れています。
※実際の治療ではレーザーの使用方法によっては、メラニンを含む組織が熱でダメージを受けた際に、熱が周囲に及び、周囲の皮膚組織にダメージを与えることはあります。
レーザーの波長と皮膚への深達度
光やレーザー波は波長が長いほど、皮膚の深い層に浸透します。イメージがつかめないときはラジオ放送の波長で考えましょう。ラジオ放送は飛ばす電波の波長の違いで短い順から短波、中波(AM)、長波(FM)と分けれます。短波放送は遠く地球の裏側の外国まで届きますが、FMラジオ(長波)は10~100kmまでしか届きません。
下の図はルビー、アレキサンドライト、Nd:YAG(ヤグ)レーザーの皮膚への深達度を示しています。
3つのなかで、最も皮膚の深いところまで届くのが、レーザー波長が1,064nmともっとも長いNd:YAG(ヤグ)レーザーです。次に755nmのアレキサンドライトレーザー、694nmのルビーレーザーと続きます。ルビーレーザーは真皮中層までしか届きません。
扁平母斑では病変部位が表皮、太田母斑、ADMでは病変部位が真皮なので、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザーがよく使われます。この2つのレーザーではどちらがよいとの比較差は通常の治療ではありません。双方が色素性疾患の治療で使われています。
Nd:YAG(ヤグ)レーザーは皮膚深くまで届きますが、メラニンへの吸収が悪いために、色素性疾患の治療にはあまり適していません。医療レーザー脱毛で毛根が深いところにあり、通所の脱毛レーザーの効果がでないところでの脱毛に優れた効果を持ちます。