更新日:2020.8.23/公開日:2020.8.19
このコンテンツは山手皮フ科クリニック 院長 豊福一朋が100%オリジナルで書いています。
医療レーザー脱毛とエステ脱毛との違い
医療レーザー脱毛とエステ脱毛も原理は同じ
脱毛はクリニックでレーザーを用いておこなう医療レーザー脱毛と、エステでおこなうエステ脱毛の2つがあります。
一般のイメージとしては、医療レーザー脱毛は高価で、エステ脱毛は安い料金体系ということでしょう。
実際は医療レーザー脱毛とエステ脱毛の差はなんなのでしょうか。
医療レーザー脱毛とエステ脱毛の最も大きな違いは、脱毛機器と出力レベルです。
エステ脱毛では、多くの場合、IPL(Intense pulsed light)という光脱毛器が使われます。
医療レーザー脱毛ではレーザー脱毛器を使います。
光脱毛器もレーザー脱毛器も脱毛の原理は同じで、毛幹を加熱して周囲のバルジと毛球部にダメージを与えます。
医療レーザー脱毛とエステ脱毛では脱毛効果に大きな差がある
脱毛では毛に含まれる黒褐色のメラニンに光やレーザーを吸収させます。
吸収された光やレーザーはメラニンを一瞬にて高い温度に加熱し、周囲のバルジと毛球部を熱破壊させます。火傷させるわけです。
エステの脱毛では光、医療レーザー脱毛はレーザーを使うのですが、光にレーザーではメラニンへの吸収度に大きな差があります。
下の図は光とレーザーでのメラニンの吸収度を表しています。
例えば同じ出力1という光、レーザーをメラニンに照射した場合、メラニンを加熱する程度は光(IPL)1、Nd:YAG(ヤグ)レーザー5、アレキサンドライトレーザー10となります。
光(IPL)の出力を5倍に上げるとNd:YAG(ヤグ)レーザーと同等、10倍に上げるとアレキサンドライトレーザーと同等の脱毛効果がでます。
しかし、光(IPL)脱毛で、5倍や10倍といった高い出力で脱毛をおこなうと、皮膚に火傷がおこってしまいます。
そこで、エステ脱毛で使う光(IPL)では決定的に出力レベルが不十分なため、脱毛効果(減毛効果)を狙う場合には何度も何度も光を照射させる必要が出てきます。
また、光(IPL)では効果が不十分になるので、毛の産生をコントロールするバルジ、毛を産生する毛球部の細胞を完全になくすことができません。
いったん毛がなくなった、あるいは減ったように見えても、残った細胞は徐々に復活増殖し、数年後に再び毛が生えてくるといったことが起こりえます。
光(IPL)脱毛では、回数を重ねても現実的には永久脱毛にはならないということはエステ、医療業界では良く知られているところです。
医療レーザー脱毛とエステ脱毛の費用の差
私は経営管理学の学位をもっていて、以前、ある会社に依頼され、エステ脱毛の現状と経営状況を調査したことがあります。
それまで、エステ脱毛の料金体系、経営にしくみを詳しく調べることはなかったのですが、これを機に、実際にエステを運営していた経営者や従業員から話を聞くことができました。
ちょうど、ミュ〇〇〇チナムの経営が立ち行かなくなって、某エステ運営会社に経営譲渡された時期です。
エステの料金システムについてお話します。
あるエステでは「両脇 プラス Vライン完了コース 100円」となっていて、回数は無制限です。この広告は集客に非常に役立ちます。
消費者は100円 無制限ということでエステに行くのですが、結局「5部位セレクトプラン」、「10部位セレクトプラン」や「全身脱毛プラン」を購入するように説得されます。
実際にエステシャンは、「100円」で来店して顧客には、何らかのプランを売らないといけないノルマが課されています。
したがって「両脇プラス Vライン完了コース100円」のみで無制限に通うことは現実にはできないのです。
結局のところ、「5(10)部位セレクトプラン」や「全身脱毛プラン」を購入することになります。
しかし、これらのプランは無制限でなく、1、4、6回などの回数制になっています。そして当然6回セットが価格がもっとも安い設定です。
ちなみに「全身脱毛6回コース」の価格をエステとクリニックで比較したところ、エステの価格は平均してクリニックの価格の60%でした。
さて、クリニック対比60%は安いのでしょうか?
エステ脱毛は決して安いわけではない
エステ脱毛につかう光(IPL)脱毛器は、クリニックで使うレーザー脱毛器に比べると、圧倒的に非力です。
光とレーザーではメラニンへの吸収度に大きな差があります。それは何倍の差となり、60%ではありません。
さらに、光(IPL)脱毛器6回終了後では、脱毛できない毛が多く残っている、あるいはこれ以上反応しない細い毛、色の薄い毛がまだある状態なのです。
医療機関でのレーザー脱毛であれば、6回終了後であれば、残りの毛ゼロとはいわないものの、永久脱毛がおおかた完了しているはずです。
光(IPL)脱毛では、6回終了後にはまだ結構毛が残っている状態です。
顧客は、「クリニックの費用の60%程度ならこんなものか」と我慢するか、さらなる脱毛のためにさらなるコースをエステで購入するか、あるいは結局のところクリニックでレーザー脱毛をおこなうかという選択になります。
でもエステは、さらなるセットの購入を意外にも勧めないのです。
それは、残った毛をエステで脱毛しようとした場合、残った毛は光(IPL)脱毛ではもはや反応しない毛で、それを知っているので、さらなる脱毛を積極的にすすめないのが現実です。
なんと、「残った毛は医療機関に行ったください」ということもあるそうです。
それで医療機関にいくようであれば、「全身ツルツル」とはなんだったのでしょうか?
また、光(IPL)脱毛だと、数年すると毛がまた生えてくることを医療レーザー脱毛に来られた方で拝見します。
それでも、クリニック対比60%は安いと思われますか?
エステ脱毛は法律的なグレーゾーン
永久脱毛については、厚生労働省より以下のような通知が出ています。
「 レーザーや強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為は医療行為である。」
この通知の意味することは、エステサロンでは、”毛乳頭や皮脂腺開口部等を破壊しないレベル”に出力調整された脱毛機器でしか脱毛行為をおこなってはいけないことを示しています。
なぜ、このような通達を出したかですが、レーザー、光脱毛では熱傷が起こるからです。不適切な脱毛による熱傷は瘢痕になり、永久に残ることもあります。
また、熱傷がおこらなくても、毛嚢炎、炎症後色素沈着などいろいろトラブルが起こるが脱毛です。それで医療行為としているのです。
レーザーは医療機器に分類され、医療機関でのみ使用することができるので、エステサロンは出力が弱く、理論上は「熱傷が起きない」光(IPL)脱毛をおこなうことになります。
理論上は「熱傷が起きない光」で脱毛をおこなうことは、「永久脱毛」は無理ということです。光(IPL)脱毛器は減毛の目的が前提となっているのです。
「永久脱毛」を目指す場合、やはり十分な出力の出せる医療レーザー脱毛を選ぶのが正しい判断と思います。
エステの医療面でのリスク
脱毛は簡単でありません。
肌質や毛の量と太さ、肌の色(皮膚のメラニン量)は人それぞれです。
我々医療機関は、出力やパルス幅といったさまざまが要素を調整して、肌に合った脱毛をおこないます。
当院では医師に監督のもと看護師が施術をおこないます。
看護師は脱毛の理論、レーザー機器のメカニズム、レーザー照射の効果的な照射方法、熱傷がおこならないための準備や注意点など多くのことを勉強します。
そして、スタッフ間での照射練習を徹底的におこない、上級技術者が手技と認めてから患者様に向き合うこととなります。
そして、レーザーにより炎症、毛包炎(毛の周囲の炎症)、炎症後色素沈着がおこった場合は、医師が対応することになっています。
エステでは、医療従事者・医療資格者ではない一般の「エステティシャン」が脱毛を行ないます。
それまで医療とはまったく関係なかった人がエステティシャンとして入社後1-2か月後には脱毛をおこなっています。
エステでは事故が起こらないようにマニュアルが完備されていますが、安全第一なので絶対に熱傷がおこらないように照射するのですが、それでは脱毛の効果は弱くなります。
肌の色、毛の太さ、密度で出力を変えることができれば、減毛効果は得られますし、熟練したエステティシャンであればそこそこの効果が得られるはずです。
でもエステティシャン全員が勉強熱心で、個人個人の毛の状況をチェックできるかには疑問が残ります。
実際、当院では一般皮膚科診療もおこなっていますが、エステ脱毛のトラブルによる受診は結構あります。
もっとも多いのは毛包炎、炎症後色素沈着ですが、ときどき熱傷をおこした方もいらっしゃいます。
最近は医療機関と提携した脱毛エステも徐々に増えてはいます。
しかし、結局脱毛を行うのはエステティシャンです。また、熱傷などがおこった場合に指定のクリニックにいくことになります。
提携した医療機関にいくのか、自分でクリニックを探していくのかの違いとなります。提携したクリニックでエステの脱毛結果に対して公平な意見が聞けるかは疑問です。
エステの経営面でのリスク
2015年、脱毛サロンの大手であったミュ〇〇〇チナムの経営者は現在の運営会社に事業を売却しました。
実際は営業譲渡で、会社はすでに破綻状態だったといわれています。
脱毛エステは大量の顧客が来ないと、運営ができない仕組みになっています。
脱毛するエステで数件程度の店舗規模でおこなっていることはありません。
脱毛エステでの重要なことは、駅前などの一等地に店舗を確保し、「安価(あるいは0円)で脱毛できる」という大規模なキャンペーン広告をおこない、顧客を一挙に集客します。
来店した顧客には、比較的高額(平均してクリニック対比60%)なセットを購入してもらいます。
店舗が多いことから、高額な広告費でも1件あたりする店舗数で割るので採算がとれます。
しかし、人件費、店舗・地代、脱毛器の購入、莫大な広告費の固定費が大きく、常に大量の顧客がこなければ回っていかない仕組みです。
そこで、従業員は「安価(あるいは0円)で脱毛できる」という広告で来店して顧客に、必死になって別の脱毛セットを売り込みます。
エステ脱毛業界は競争が激しく、少しの顧客の減少で赤字になります。
普通なら、そこで広告費を減らすのですが、そもそも、広告費で顧客を呼ぶビジネスモデルでは、広告費削減は致命的となります。
赤字⇒広告費削減⇒顧客の減少⇒赤字の拡大となるわけです。
エステはたとえ赤字であっても、顧客回復を期待し莫大な広告費をつぎ込まないとやっていけないビジネスモデルといえます。
どんどん広告費を投入していきますが、次第に赤字は拡大し、ある日突然経営破綻となります。これが2015年におこった経緯です。
脱毛に限らず、エステなど広告で顧客を募集する業界では時々おこることです。英会話のNOVA、2020年7月にはテレビ広告で有名だった弁護士法人が経営破綻しました。
エステ破綻時、セットを購入している顧客は債権者となり、返金を受ける権利は残りますが、実際に返金されることはありません。
これがエステの経営面でのリスクとなります。
医療機関での脱毛のすすめ
女性にとってムダ毛の処理はもはや常識となりました。また、男性の髭の脱毛、からだの脱毛も増えてきました。
表向きの費用面からはエステの脱毛は魅力的です。
クリニックでの脱毛はエステでおこなうより割高となります。
60%の料金でそこそこも減毛効果で満足されればよいのでしょうが、そもそも脱毛の目的は「毛のないツルツルの肌」です。
これを期待して脱毛にお金を費やされると思います。
「毛のないツルツルの肌」を求められるのであれば、医療機関のレーザー脱毛をおすすめします。
脱毛のメカニズムとレーザー機器の特徴はこちらをご覧ください。