更新日:2020.8.23/公開日:2020.8.19
このコンテンツは山手皮フ科クリニック 院長 豊福一朋が100%オリジナルで書いています。
脱毛のメカニズムと使用機器
レーザー脱毛は「永久減毛」
「永久減毛」と「永久脱毛」
医療レーザー脱毛は「永久脱毛」であると長い間言われ続けてきましたが、最近は「永久減毛」あるいは「長期的な減毛」と表現されています。
「永久脱毛」と「永久減毛」の言葉の定義について説明いたします。
医療脱毛に使うレーザー脱毛器は、当初は米国で開発されたものでした。
米国では医療機器は米国FDA(U.S. Food and Drug Administration, 米国食品医薬品局)という監督庁の認可を得てから、医療現場で使用が認められます。
日本では、そのようはFDAで認可されたレーザー脱毛器が医師による個人輸入として、米国医療機器メーカーの日本支社を通じて広まっていきました。
そのFDAではPermanent hair reduction(永久減毛)が使用され、日本での呼称が「永久脱毛」として認知されています。
下の表は、米国の英語表現と日本での意味の差をまとめています。
FDAで認可された使用目的 | 日本語訳 | 脱毛方法 | 日本での呼称 |
Permanent hair removal | 永久脱毛 | 電気針脱毛 | 永久脱毛 |
Permanent hair reduction | 永久減毛 | レーザー脱毛 |
このように「永久脱毛」は電気針による脱毛を意味し、レーザー脱毛器による脱毛は「永久減毛」となります。
これに沿ったからでしょうか、厚生労働省から認可された医療レーザー脱毛器の使用目的は、「本品(キャンデラ社 ジェントルレース・プロ)は、レーザの選択的熱作用により、”長期的な減毛”を目的とした装置である。」となっています。
永久脱毛=永久減毛と考えるようになっています。
毛の構造
毛の構造
一本の毛(毛幹)とそれを取り囲む毛の産生に関わる皮膚組織を「毛包」と呼びます。
毛包の下部には毛の産生にかかわる細胞があるやや膨らんだ「バルジ領域(以下バルジと記載)」と「毛球部」があります。
バルジとは「膨らんだ部分」を意味する英語で、その膨らみには毛包幹細胞と色素幹細胞があります。
これらの細胞は、毛包の最下部にある毛の工場である「毛乳頭」へ”もっと毛を作って生やせ”という指令を与出し、毛の成長をコントロールしています。
その毛球部には「毛乳頭」と「毛母細胞」があります。
毛母細胞が分裂することで、毛が成長し、毛を皮膚の外へと押し上げていきます。ここは毛の生産工場です。
脱毛機器には、単発型(ショット型)脱毛レーザーと蓄熱式脱毛レーザーがあります。
単発照射式は「ショット」とわれるように、ミリ秒(1秒の1000分の1)という短い時間でレーザーを毛幹に照射して、毛包を含めた毛の周囲組織を熱破壊します。
蓄熱式は毛の周囲にゆっくり熱を蓄積して、毛の周囲組織熱破壊します。
単発照射式は主に毛球部、蓄熱式は主にバルジを熱破壊することで、永久脱毛(永久減毛)をおこないます。
毛周期
毛の一本一本には、毛の成長開始から、毛が太く長くなる成長、自然に抜け落ちるまでの一定のサイクルがあり毛周期といいます。
1つの毛包で毛は毛周期を繰り返し、生えて抜け落ちるといったことを繰り返します。
成長初期
毛球部の毛母細胞では毛の成長が始まります。
成長期
成長期は2~6年続き、毛球は太く長くなり、それに伴い毛も太く長く成長します。
この時期の毛はレーザー脱毛の格好のターゲットです。
レーザーによく反応してバルジ、毛球部を含めた毛の周囲組織を燃焼させることができます。
退縮期
毛球部が小さくなり退縮が始まります。
毛を産生する毛母細胞と毛の下端には距離ができます。
レーザーを照射して毛の周囲組織は燃焼しても、熱は毛球部の破壊まで至りません。
脱毛レーザーの脱毛効果が少ない時期です。
休止期
毛球は完全に退縮して小さくなります。
さらに毛は抜け落ちた状態で、レーザーを照射しても毛がないので、燃えるものがなくなるため脱毛効果はありません。
3~4ヶ月すると、再度成長期初期に入り、毛の産生が始まります。
レーザー脱毛のメカニズム
レーザー脱毛のメカニズム
毛包の下部には「バルジ」と「毛球部」があり、毛の産生に関わっています。
バルジと毛球部を含めた毛の周囲組織(毛包全体)を熱破壊し、脱毛(減毛)をおこすことが脱毛のメカニズムです。
レーザー機器から皮膚表面に照射されたレーザーは毛幹のメラニンに吸収され、毛を瞬時に燃焼させ、高熱へ変換されます。
熱は周囲に拡散してバルジと毛球部を含めた毛の周囲組織を熱破壊します。
したがって、毛球部を毛幹の間に隙間があると、熱が毛球部を破壊できず、脱毛効果が落ちます。
以前は、毛球部が破壊されないと、永久脱毛(永久減毛)はできないと考えられていました。
現在はバルジを熱破壊することも重要視されていて、その理論が正しければ、退行期の毛にもレーザーが効いていることになります。
脱毛では毛の周囲の皮膚組織を守りながら、いかに毛包周囲の組織、とくにバルジと毛球部を熱破壊するかがレーザーの良し悪しを決定します。
単発照射(ショット)式か蓄熱式か
レーザー脱毛の目的は毛の産生に関与する毛球部とバルジを熱破壊することです。
毛球部の毛母細胞、バルジの毛包幹細胞と色素幹細胞がなくなれば、毛の産生は止まり、永久脱毛(永久減毛)となります。
医療機関で脱毛に使われるレーザーは、単発照射(ショット)式と蓄熱型式です。
単発照射式はジェントルレースシリーズがよく使用されていて、アレキサンドライトレーザーとYAG(YAG)レーザーを使い分けて脱毛します。
蓄熱式で名前が知れているのはメディオスターで、ダイオードレーザーです。
単発照射式、蓄熱式双方とも毛の周囲組織を熱破壊することで脱毛を行ないますが、前者が毛球部を、後者がバルジを主な破壊部位とすることが異なります。
どちらが効果があるかはよく議論されていますが、実際は効果の差はないと言われています。
クリニックの院長や医療スタッフのレーザー機器への習熟度、好みの差でいずれかを導入するようです。
脱毛に要する時間は蓄熱式が単発照射式よりやや短く、大手美容クリニック、チェーン方式の脱毛専用クリニックに多く導入されています。
単発照射式 | 蓄熱式 | |
製品 | ジェントルレースシリーズ | メディオスター |
レーザーの種類 | アレキサンドライトレーザー YAG(ヤグ)レーザー |
ダイオードレーザー |
波長 | 755nm(アレキサンドライト) 1064nm(YAG) |
810nm+940nm |
ターゲット | 毛球部>バルジ | バルジ>毛球部 |
レーザーの波長とメラニンへの吸収度
単発照射式に使われるレーザーはアレキサンドライトレーザーがもっとも多く使われています。
クリニックでの医療脱毛で用いられてるレーザーは大きく3種類で、レーザー波の波長で分かれています。
波長の長い順番から、アレキサンドライトレーザー(波長755nm)、ダイオードレーザー(810nmと940nm)、Nd:YAG(ヤグ)レーザー(1064nm)です。
レーザーの波長でメラニンへの吸収度が違い、吸収度が高いほど、少ない出力で毛のメラニンを熱破壊することができます。
下図に、それぞれの波長とメラニンへの吸収度の関係に図を示しています。
アレキサンドライトレーザーは一番左にあり、もっとも吸収度が高く、ダイオードレーザー、Nd:YAG(ヤグ)レーザーが続きます。
単発照射式レーザー ロングパルスアレキサンドライトレーザー
単発照射式レーザーで汎用されているのは、波長755nmのアレキサンドライトレーザーです。
3つの波長の中で、波長755nmがもっともメラニンへの吸収が高いので、発熱効率がよく、出力を上げなくても毛を燃焼させることができます。
したがって、産毛~細い毛~標準サイズの毛~太い毛とオールマイティーに使うことができます。
キャンデラ社のジェントルレースシリーズはロングパルス・アレキサンドライトレーザーで、長い歴史を持ち、世界中でもっとも多く使われている脱毛レーザーです。
ジェントルレース、ジェントルレース・プロ、ジェントルマックス・プロの3種類があります。
当院ではジェントルレース・プロ、ジェントルマックス・プロを使っています。
ジェントルマックス・プロ アレキサンドライトレーザーとYAG(ヤグ)レーザーの2種類の照射をおこないます。
ジェントルレース・プロ アレキサンドライトレーザーの照射をおこないます。
ジェントルレースの冷却システム
アレキサンドライトレーザーの波長755nmのレーザー波はメラニンへの吸収度が最も高いので、効率のよい脱毛効果を得ることができます。
しかし、メラニンへの吸収度が高いということは毛以外のメラニンにも吸収されることになります。
皮膚の表皮はメラニンを含んでいますから、脱毛では皮膚表面も熱をもってしまいます。
したがって、アレキサンドライトレーザーはレーザーから皮膚表面を守る冷却装置を備えることが大切で、冷却装置の性能の是非がレーザー機器の性能を左右します。
ジェントルレースシリーズはDCD(ダイレクト クーリングシステム Direct Cooling Device)という特許技術をクーリングシステム(冷却装置)に導入していて、この装置があるので世界中でも最も多く使われている脱毛レーザーとなっています。
レーザーの照射の直前に、霜がつくくらい冷たい冷却ガスを皮膚表面に吹き付けます。
皮膚表面は冷却され、その直後のレーザーが照射され、メラニンを大量に含んだ毛は一瞬で燃焼します。
皮膚表面は毛よりメラニン量が少ないので、冷却で保護され熱ダメージから逃れます。
単発照射式レーザー Nd:YAG(ヤグ)レーザー
アレキサンドライトレーザーにも脱毛に向いていないケースがあります。
光は波長が長いほど、深くところまで届きます。
潜水艦を探すのは超長波(ちなみにFMラジオの電波は長波、AMは中波)の波長を使います。長い波長は海深くまで届きます。
アレキサンドライトレーザー(波長755nm)、ダイオードレーザー(810nmと940nm)、Nd:YAG(ヤグ)レーザー(1064nm)ではアレキサンドライトレーザーがもっとも波長が短く、浅いところに届きます。
通常はこの深さで脱毛には十分なのですが、深いところの脱毛は苦手な場合があります。
また、メラニンへの吸収が3つの波長のなかでもっともよいので、肌色が濃い人はDCDの冷却装置をつかっても、皮膚の火傷をおこし易くなります。
このような場合にNd:YAG(ヤグ)レーザーを使います。
Nd:YAG(ヤグ)レーザーの波長は1064nmでアレキサンドライトの755nmより深く届き、メラニンへの吸収はアレキサンドライトレーザーより劣るので、深いところの毛、肌色の濃い人の脱毛が可能となります。ただし、痛いのが欠点です。
アレキサンドライトレーザーとNd:YAG(ヤグ)レーザーの特徴は以下のようになります。
※Nd:YAG(ヤグ)レーザーは日焼け肌の脱毛も可能というクリニックもありますが、熱傷の可能性は高くなります。
当院では日焼けした場合は、皮膚色が戻るまでお待ちいただきます。
蓄熱式レーザー
蓄熱式レーザーの最大の利点は一度の比較的大きな面積の脱毛をおこなえることです。
蓄熱式レーザーはダイオードレーザーなのでメラニンへの吸収度も皮膚への診察する深さもはアレキサンドライトレーザーとNd:YAG(ヤグ)レーザーの中間となります。
ゆっくり加熱してバルジを破壊するのを目的としているのでレーザーの性質をうまく使ったレーザーだと言えます。
医療レーザー脱毛とエステ脱毛の違いを分析しました。詳細はこちらをご覧ください。